イジメはなくせます by弐月直也

学校裏サイト掲示板ブログ

コメディーシナリオ

 『ら、ら、ラン、RUN』 

○朝・街路
 歩道の上を跳ねる、スニーカー。
 学生カバンを提げて、高校二年生の綱元成美が、全力疾走で登校中。

○綱元家リビング(回想シーン)
 成美が母親と言い争っている。
成美 「オカンー。新しいチャリンコ買ってやー!」
オカン 「そんなん、お金のムダ使いや、あかん」
成美 「しゃあないやん! スーパーに止めとったらパチられてんから!」
オカン 「あんたがカギ差しっぱなしで、離れるから悪いんや」
成美 「何言うてん! パチったヤツが悪いに決まってるやろ!」
オカン 「あんたが悪いんや」
成美 「チャリなかったら、学校行かれへん!」
オカン 「歩いて行ったらええ」
成美 「学校まで、9キロもあんのに、歩いて行けるか! お願いやからチャリ買ってぇ!!」
オカン 「あかん! あんた、チャリ無くしたん、これでもう7台目やろ」

○街路
 走る、成美。
 横断歩道の信号が、点滅している。
成美 「あれに引っかかったら、遅刻や!」
 さらにスピードを上げて、横断歩道を渡りきる。弾みで、近くにいたサラリーマンを突き飛ばす。
成美 「あ~ッ、おっちゃん、ゴメンッ!」
 サラリーマンは、怒って振り返るが、成美の姿はすでに遠い。

○成美の部屋(回想シーン)
 置時計の針が八時十五分を回っている。
成美 「あぁ~ッ!」
 ベッドから飛び起きる。

○綱元家リビング(回想シーン)
 歯ブラシをくわえながら、靴下をはいている成美と、成美の母親。
成美 「なんで起こしてくれへんかったんよ~ッ!」
オカン 「誰も、起こすなんか約束してないでしょ?」
成美 「昨日は起こしてくれたやんか!」
オカン 「昨日は昨日。今日は今日」
成美 「ちょっと早く、ゴハン用意してぇよ!」
オカン 「もう時間ないでしょ、ゴハン食べんと行き」

○街路
 疾走する成美。

○教室(回想シーン)
 汗まみれの成美と、成美の親友、雅代。
雅代 「なぁ、成美、なんで電車で来えへんの?」
成美 「複雑な事情があって……」
成美(ナレーション)
 『すべり止めで受けた私立校に入学してしまったために、庶民の家庭に育った私には、高価な電車通学は許されず、車酔いがひどいせいで、バス通学もできない。もともと通学の手段は、チャリンコを想定して選んだ学校だったので、チャリンコがない今は、自分の足を使って登校するしかない身の上なのだった……』

○校門前
 校舎内にある時計の針が、八時三九分を指している。
成美(ナレーション)
 『朝寝坊がたたって、毎朝9キロの距離を走って通学するのも、最初は一時間かかったけど、今では四〇分で行けるようになった』
 校門を抜け、教室へ駆け込む、成美。
成美 「よッし! 今日もギリギリ間に合いそうや!」

○2‐Cの教室
 授業中。
 教壇には、二十代半ばの女教師。席に着いた成美の姿も見える。
成美 「なんとか間に合った(読者に向かってVサイン)」
先生 「近い将来、食糧不足の危機がやって来るといわれています。面積の問題で収穫に限界がある穀物類はもちろん、水産物だって例外ではありません」
 教室の中央よりやや右後方に成美がいる。
成美 「しかし、毎日、汗だくや……(ハンカチで汗を拭っている。やがて、手を止め)はぁ~っ(深いため息)……ハッしゃん……」
 成美の目線の先には、長谷川(ハッしゃん)の後ろ姿。
成美 「きっと、これは恋や~ぁ……」
 成美は恍惚とした表情で、長谷川を見つめる。
成美 「(心の声)思い続ければ、気持ちが届く。祈り続ければ、願いが叶う……」
 授業そっちのけで、長谷川ばかり気にしている成美。
先生 「例えばマグロなどは、体長が小さいものは、海へ返すというルールが設けられていますが、ルールを無視した乱獲が横行して、数が減ってしまっていることなどが、国際的な問題になっています」
成美 「(心の声)長谷川君……ハッしゃん。私、ハッしゃんのこと、めっちゃ好きやねん。好きやねん、好きやねん、好きやねん、好きやねん、好きやねん、好きやねん、好きやねん~~!……どぉ?……私のこと好きになったかな……」
 長谷川の後ろ姿を見つめる成美。
 そのとき、長谷川が成美のほうを振り返り、手を振ってニコッと微笑んだ。
成美 「!! もしかして今、想いが通じた!? よしっ……ちゃんと、ちゃんと自分から、コクらんと……」
 成美、両腕を几の字に組んで、手の甲に顎をのっけたまま、ぼーっとしている。
成美 「でもな~ぁ……フられたとき、痛いよな~ぁ……」
先生 「余談ですけどね、マグロの泳ぐ早さは、時速六十キロとも、百キロとも言われていて、決して休むことなく一生泳ぎ続けるんですよ」
成美 「そんな、駆けていく人生もええな~ぁ……」
 成美の携帯が、ブるるる……と振動。成美、メールを見る。
 宛名には、クラスメイトの雅代の名。
メール本文 『なるみぃ……、ぁのさぁ、さっきから、なにずっと長谷川くんばっか、見てんのょぉ……惚れてるの、バレバレぇ~☆』
 成美、雅代の方を振り向くが、雅代は何気ないふりで、先生の話を聞いている。
先生 「回遊魚のマグロは、海中に含まれている酸素を、泳ぐことによって取り入れてるから、泳ぎ続けないと死んでしまうんです」
 雅代へ、返信のメールを打つ、成美。
メール作成中 『ぁのさ、ハッしゃんにコクったら、どぉなると思ぅ~?』
 再び携帯が振動して、雅代からの返信メール。
メール本文 『大丈夫やって! ぅちが思ぅに、長谷川くんと成美は、両想ぃや☆間違ぃナシ☆』
 成美は、目をパッチリとさせて喜びの表情。
メール作成中 『ホンマ~!☆?☆!☆? なんか勇気が湧ぃてきたなぁ~☆☆☆コクろっかなぁ~』
 成美、メール送信。
 女教師が、成美の動向に気がつく。
先生 「さて、本題に戻るけど。食料の自給率が低く、輸入に頼っている、私達に一番関係が深い国はどこですか?――綱元さん!」
成美 「(あわてて)はいッ! 私もマグロみたいに、全力で人生をかけぬけたいです!」
雅代 「アホか……(教科書に顔をうずめる)」
先生 「綱元さん、補習ね!」
 クラス一同、失笑。
 ――チャイムが鳴る。

○放課後・校内の玄関付近
 靴箱の陰に隠れて、成美と雅代の姿。
 野球部のユニフォームを着た、長谷川が通る。
雅代 「(小声で)来たで、成美! ほら、ガンバレっ!」
 雅代は、成美を突き飛ばす。成美は、長谷川の前にいきなり放り出される格好となる。
長谷川 「わっ!」
成美 「あっ、ハッしゃん!」
長谷川 「おう、綱元か。あれ?部活どうしてん?」
成美 「合唱部の息継ぎ中!」
長谷川 「つまり、サボりか」
成美 「まぁね!」
長谷川 「気楽なクラブやなぁ、合唱部は」
成美 「なぁ、ハッしゃん、彼女いてるん?」
長谷川 「ん? ぅン……おらんけど」
成美 「私と付き合ってくれへん?」
長谷川 「ええで!」
成美 「ホンマに!」
長谷川 「おう! かかってこいよ」
成美 「かかってこい?」
 ――ゴツッ!
 長谷川は成美の額に、頭突きをする。
成美 「痛いなぁ、なにすんねん!」
長谷川 「おまえ、突きあってくれって言ったやんけ。早よ、おまえも突いてこいよ」
 長谷川はさらに、ゴツっ、ゴツっと、頭突きをくらわす。
成美 「痛っ、痛っ! だっ、誰が、頭突き合ってくれって頼んでん!」
長谷川 「ど突きあいの方やったか?」
成美 「そんな、余計な文字の付いたつき合い、いらんわ!」
長谷川 「なんや、いらんのか……」
 長谷川は、成美の肩をぽんと叩き、
長谷川 「綱元~、おまえは確かに悪い女とちゃうけど、オレには、憧れのヒトがおるからなぁ」
成美 「憧れのヒトって?」
長谷川 「オレな、麗華センパイに夢中なんや。ほら、陸上部の。グラウンドで長い髪をなびかせて走ってる、美しい人」
 成美は、陸上部の中でもひときわルックスが目立つ、麗華の姿を思い浮かべる。
成美 「あ、あぁ」
長谷川 「ゴメンな。でも、これからも、オレとおまえは仲良しやで」
 去って行く、長谷川。

○下校途中の街角
成美 「な、な、なにが両想いじゃーぁ!」
雅代 「ゴメっ! ゴメっ!」
成美 「あかん、もうあかん……」
雅代 「まぁ、そう落ち込みなや、成美ぃ~」
成美 「私の恋は終わった……青春は終わった~ぁああああぁぁぁ~!」
 雅代と、肩を沈めて歩く成美の後ろ姿。夕焼けに沈む太陽。

○翌日朝・三年生教室付近の廊下
 晴天。
 「おはよう~」など、登校する生徒達の声。
 長谷川と、麗華がいる。
 そばの窓からは、ちょうど校門周辺が見渡せる。
長谷川 「麗華センパイ、駅伝大会、いよいよ明日ですね! 頑張ってくださいよ」
麗華 「それがね……」
長谷川 「何かあったんですか?」
麗華 「今、部内で風邪が流行って、レギュラー数人が大会に出られへんようになったんよ」
長谷川 「えッ!? でも他の部員で、埋め合わせをつけたらいいでしょ?」
麗華 「選手は誰でもよくないの。代表と見合うだけの実力を持った人を選ばないと。そしたら、どうしてもあと一人だけ見つからへん……私達、この日のために、毎日タイムを競って、練習してたのに……」
長谷川 「そんなにがっかりしないで下さい。そうそう! ウチのクラスに、うってつけのヤツがいてますよ!」
麗華 「うってつけ!? 代走できるコいてる?」
長谷川 「いてます、いてます!」
麗華 「長距離をペースダウンせずに完走できる、速さと持久力があるコ!」
長谷川 「いますとも! あっ、ほら! アイツです!」
 長谷川は、窓の向こうの校門を指差す。
 そこには、顔面蒼白で校門をくぐり抜ける成美の姿が。
麗華 「あのコが!」
長谷川 「アイツは毎日、家から学校までの9キロの距離を、タイムを競って登校してるんです!」
麗華 「毎日9キロ!!」
長谷川 「四〇分で着きますよ」
 長谷川は歯を輝かせて、(意味不明の)さわやかな笑顔を浮かべる。
麗華 「でも、出てくれるかしら?」
長谷川 「昼休みに呼び出して、聞いてみましょう!」

○昼休み・校舎の屋上
成美(声) 「え? 私が!」
 成美と麗華、そして長谷川がいる。
麗華 「ええ、そうよ」
成美 「合唱部の私に、いきなり駅伝に出ろなんか言われても」
麗華 「聞いたわ。毎朝、9キロを四〇分で登校してるってこと」
成美 「えへへ……色々と事情がありましてぇ……」
麗華 「チームの、一番手を走る選手として、出場してほしいの」
成美 「そんな!……私には、プレッシャーがきつすぎます……」
麗華 「お願い! あなたしかいないの!」
成美 「……でもぉ……」
長谷川 「オレからも頼む! 綱元、この通りや(手を合わせる)」
 成美は、自分が告白したときに、長谷川に断られたことを思い返す。
 成美の切ない表情。
成美 「わかりました。力になれるかどうか、わかりませんけど……」
麗華 「ありがとう。無理言ってごめんね!」
長谷川 「すまんな、綱元っ! 頼んだで!」
成美 「うん。とにかく、頑張れるだけ頑張ってみるわ!」
麗華 「あなたなら大丈夫! 本当にありがとうね、綱元さん!」
長谷川 「オレからも、礼を言うわ。ありがとう!」
成美 「は~い」
 成美は手を振って、この場を去る。その姿を見送る、長谷川と麗華。
麗華 「長谷川君のおかげで、心配事はなんとか解決したわ」
長谷川 「絵っ、餌っ、えっと、センパイ……故っ、子っ、個人的にお伝えしたいことがあるんです毛ど……」
麗華 「ん?」

○携帯電話の表示画面
 着信音とともに、メール受信の文字。
成美 『私、陸上部の一員として、駅伝大会に出ることになってん。急に!』
雅代 『へぇ、なんか成美はぃっでも走ってるなぁ。で、大会はぃっなん?』
成美 『それが、明日やねん!』
雅代 『そりゃホンマに急ゃな。ぃよっ! まさにマグロ女!』
成美 『なんちゅっても、ハッしゃんに頼まれたからさ☆』
雅代 『そっか~。ょしっ、じゃ、ぅちも応援に行くで~ぇ!』

○大会当日・会場のグラウンド
 快晴。選手や大会関係者、見物客らで混雑している。
 各校のランナーが、それぞれに準備している。
 そこに紛れて、ハチマキを巻いたテンションの高い綱元成美と、長谷川と雅代の姿。
成美 「(準備体操しながら)よーし、今日は頑張るでぇ~!」
長谷川 「綱元、ほれ!」
 長谷川は、「マグロ油」と書かれた、サプリメントを差し出す。
成美 「なにコレ?」
長谷川 「マグロ油のサプリメントや。この前、授業で言っとったやろ。マグロみたいになりたいって」
成美 「これ飲んだら、マグロみたいに、早く走れるようになるん?」
長谷川 「嘘や嘘や、これは健康食品。ただの気休めや。急に出場してもらったから、悪いなって思ってな。応援の意味も込めて、昨日、ドンキホーテから買ってきたんや」
成美 「これって、ドーピングとちゃうの?」
長谷川 「サプリメントが、ドーピングになるかい」
成美 「ふぅん……。私のことを気遣ってくれたんやぁ……。あれ? でもハッしゃん、なんで私のとこにおるん? 麗華センパイを応援しに来たんじゃなかったん?」
長谷川 「それがな……あらからぁ……オレぇ……麗華センパイにフラれたんや」
成美 「え?!」
長谷川 「おまえが帰った後ぉ、……麗華センパイに告白したらぁ、断られてん……」
成美 「そ、そうなん」
長谷川 「オレぇ、緊張したら、なんか、庫っ、固っ、言葉につまって、肝心なときにうまく喋られへんようになるねん」
成美 「ま、まぁ、タイミングが悪かっただけかも知れへんし。ほんじゃぁ、コレ、さっそく飲んでみるわ!」
 成美は、「マグロ油」のサプリメントを、ごそっと手のひらに取り出して、長谷川が用意していたペットボトルの水で、それを飲みこむ。
長谷川 「お、おいッ、なん粒飲む気や」
成美 「ん? 多めに飲んだほうが効きそうや~。気のせいか、なんか元気でてきたわ~」
 成美は、腕をブンブン振り回す。
麗華 「綱元さーん」
 麗華がやってくる。その周りには女子部員たち。
成美 「あ、麗華センパイや」
 気まずそうな長谷川。
麗華 「急に、ゴメンね……」
成美 「いいんですよ。私、精一杯、頑張ります」
麗華 「いえ、そうじゃないの」
成美 「結構、自信あるんですよ、私!」
麗華 「違うの。もう、メンバー揃ったのよ。風邪だった部員も、なんとか体調整えて来てくれたから、せっかくやけど、もうあなたには用が無くなったの」
成美 「へ?」
麗華 「もっと早く連絡するべきやったんやけど、こっちも連絡受けたのが、ここに来てからやったから……」
成美 「じゃ、じゃあ……」
麗華 「もうエントリーから、はずさせてもらったわ」
 成美、怒りで顔面が紅潮する。
成美 「な、何ですかそれ! ここまで来させといて、急に人が足りたから、もう用は無いって!? ちょっと一方的すぎるんじゃないですか!?」
麗華 「でもね、やっぱり高校生活最後の大会だし、仲間同士で走らないと意味が無いじゃない」
成美 「それはいいですけど! その断り方、いくらなんでも失礼とちゃいます!?」
麗華 「だから謝ってるじゃない!」
成美 「張り切って来た私が、アホみたいじゃないですか! もういいです、わかりましたッ!」
 成美、プイと横を向いて、この場を去って行く。
雅代 「成美ぃー!」
 取り残された、長谷川と雅代。
 麗華は、部員達を集めて、輪になる。
麗華 「ファイットーーォ!」
部員 「オーーッ!」

○街路
 一人、肩をいからせて歩いている成美。
成美 「こうなったら、このまま泣き寝入りはでけへんわ! 何が何でも、見返してやらな!」

○道路(第一区コース)
 たがいに競りあっている、各校のランナー。
 それを応援している観衆。その中に、長谷川と雅代の姿。
雅代 「成美、どこに行ったんやろ?」
長谷川 「そうや、もう綱元でぇへんのやから、こんな大会見てても意味ない。綱元探そう」
雅代 「結構、傷ついてたみたいやったね、成美……」
長谷川 「元はと言えば、オレの責任や。オレが、綱元を誘ったんやから……綱元に謝らんと……」

○道路(最終コース)
 先頭集団には、三名のランナー。
 その中のトップの選手が、麗華に襷(たすき)を渡す。
 麗華、襷を受け取り、加速。他の二名を引き離し、麗華の独走状態になる。
 すると、麗華の真後ろに、人影が現れ、その影は彼女の真横に並んだ。
麗華 「誰!?」
 それは、成美だった。
麗華 「――綱元成美ッ!!」
成美 「さぁ! 勝負や!」
 成美と麗華は、二人並んで集団の先頭を走る。
成美 「センパイよりも、早くゴールしたら、私の勝ちや!」
 成美が、麗華を追い抜く。
麗華 「同じ学校に、こんな早いランナーがいたとは! 綱元成美……合唱部にはもったいない!!」
成美 「許さへん! こんな悔しい気持ち、それを私に与えた張本人にぶつけてやらな、気がすまへん。センパイより早く走ったら、陸上部の全員に勝ったも同然や! たかが合唱部に負けたとあっては、面目たたへんやろ。その面目、たたへんようにしたる! この勝負……」
麗華 「私は、陸上部のキャプテン! たかが合唱部の、しかも、一年、年下のコに負けるわけにはいかへん! この勝負……」
 麗華、成美に追いつき、
成美・麗華 「――意地でも負けへんで!!」
 二人は、ぴたりと並んで、激走する。
 ふと、成美の頭の中に、深海の中をマグロの群れと一緒に泳いでいる映像が浮かび上がる。
成美 「なんか調子ええわ。ぐんぐん追い抜けそうや!」
 再び成美、麗華を追い越して行く。
麗華 「は、早い……!」

○最終コース沿いの歩道
 大勢の見物客。
雅代 「あかんわ~ぁ……」
 人ごみと歓声に紛れて、長谷川と雅代の姿。
 雅代は、携帯電話を耳に当てている。
雅代 「何回かけても、つながらん」
長谷川 「何してんやろ、綱元……」
 周囲の歓声が大きくなり、長谷川は、二人のランナーが走っている姿に気が付く。
 それは麗華の姿だった。その後ろには成美がいる。
長谷川 「あれっ!? 綱元や!」
 現在の順位は、先頭が麗華、続いて成美となっている。
雅代 「なんで成美が、選手みたいに走ってるわけ!?」
長谷川 「なんか、ようわからんけど……おう~ぃ! 綱元ーっ、頑張れ~!」
雅代 「成美ィ~、ファイトォ~ッ!」
長谷川 「よしっ、ゴールまで先回りして、どっちが勝つか見届けようぜ!」
雅代 「うんっ!」
 人ごみを掻き分けて、長谷川と雅代は、小走りに駆けて行く。
 
○会場・トラック
 成美と麗華、激しいデッドヒート。
成美 「負けるもんか! このジコチュー女にだけは!」
麗華 「負けるもんか! 大会に勝手に乱入してくる、このジコチュー女に、つけ上がらすわけにはいかへん!」
 目の前にゴールが見える。
 テープカットしたのは成美の胴体。成美が一着でゴールイン。
 わずかに遅れて、麗華が続く。
係員 「一位の方、こちらへどうぞ」
 成美は、係員に案内される。後ろでは、麗華の姿。
麗華 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ま……負けた……」
 麗華、地にひざまずく。悔しそうな顔で、成美を睨みつけている。
 成美に、駆け寄って行く、長谷川と雅代。
雅代 「成美、おめでとう!」
成美 「はぁ、はぁ……勝ったで! はぁ、はぁ」
長谷川 「すごいな、綱元! 一着や」
 長谷川はタオルを差し出して、成美はそれを受け取る。
成美 「うん!」
 成美は、スローダウンして、脇へ寄ろうとするが、走り止まない。
成美 「あ、あれ? 止まらへん!?」
長谷川 「おい、どこ行くんや?」
成美 「なんか、スピード落としたら、息苦しゅうなって……!!」
長谷川 「おい、まだ走るんか?」
成美 「な、なんか、私の体ヘンや! 走らな、息苦しくなって死んでしまいそうや……!!」
 徐々に、加速しだす成美。
長谷川 「おーい、待てよー。どこ行くねーん!?」
成美 「た、助けてー!」
 成美は、会場を走り過ぎる。
 長谷川と雅代も後を追う。
 その後ろには、麗華の姿も。
麗華 「そのまま走り続けろ、綱元成美……追い抜いてやる……まだ勝負は……終わっていない……」

○街路
成美 「わ、わ、わっ!」
長谷川 「おい、もうちょっとスピード落とされへんのか!?」
成美 「アカンねん、足が勝手に、このスピードで走るんや!」
 成美の頭で、鳴り響く声。
成美 「止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ、止まったら死ぬ…………」
長谷川 「おぅーい! 止まれー、綱元ぉ!」
成美 「ハッしゃん! 助けて! 私、止まったら死ぬ!」
長谷川・雅代 「!?」
 長谷川と雅代は、一瞬、顔を見合わせる。
長谷川 「おい綱元! どこに行こうとしてるんや!?」
成美 「行き先なんか、ないねん! ただ、走ってないと、なんか苦しいんや~ッ!」
雅代 「成美ーっ、危ないッ!」
 ――パァーーーーン! と、クラクションの音。
成美 「ぎゃぁぁーーッ!!」
 成美の体すれすれに、トラックが横切る。
成美 「私の体が、おかしいーッ!」
 長谷川は、はっとして、
長谷川 「ひょっとして、マグロ油が効いて、こうなったんか!?」
雅代 「どういうこと!?」
長谷川 「大会が始まる前に、綱元にマグロ油のクスリを飲ませたやろ!」
雅代 「ただの健康食品じゃなかったの!?」
長谷川 「そのはずやねんけど、……あいつ、大量に飲んでたから、泳ぎ続けな死んでしまうマグロみたいに、走り続ける生き物になってしまったんかも!?」
雅代 「えぇッ!?」
 青ざめる長谷川と雅代。
 依然、走り続けている成美。
 ――カーン、カーン、カーン! と踏切の警報音。
 すでに遮断機は下りている。
成美 「やばいーッ! 踏み切り! 踏み切り! 踏み切りがあぁぁぁぁー!」
 電車が横切る。
成美 「間にあわへんーッ!」
 目の前を通過する電車に、突っ込んでいく成美。
成美 「ぐわぁぁぁああああっーー!」
雅代 「成美ぃーッ、曲がったらええねん!」
成美 「そや!」
 踏み切りの、ギリギリ手前で、Uターンする。
 そして成美は、後を追う長谷川と雅代に、対面に向かい合うが、また通り過ぎる。
成美 「私を止めて~!!」
 成美の方を振り返る、歩行者たち。
雅代 「このまま走り続けとったら、ほんまに危ないわ! ちょっと、警察呼ぼう! 警察!」
長谷川 「警察なんか呼んでどうするんや、こんなことで!」
雅代 「お巡りさんやったら、何とかしてくれるかもしれへん!」
成美 「ぎゃぁぁぁぁーーーっ!」
雅代 「ハッ!」
長谷川 「どうした!? 綱元ーッ!」
成美 「イヌのクソ踏んでもたーーーーぁ!!」
 ずっコケる、長谷川と雅代。
長谷川 「こんなん説明しても、お巡りさんも信じてくれへんで!」
雅代 「でも、このまま走り続けとったら、成美はいつか車に跳ねられてしまうかも知れへんやん!」
 そうしていると、ちょうど交番の前を通る。
雅代 「あっ、交番や! 長谷川君、呼んできて」
長谷川 「とっ、とりあえず、説明してみるわ、すいませーん、お巡りさーん!」
 あわてて交番へ駆けていく長谷川。
雅代 「そうや、うちは先生に、連絡してみよ」
 雅代は、携帯電話を取り出す。

○交番
 中では、居眠りしている、一人の中年お巡りさん。
 長谷川が入ってくる。
長谷川 「尾っ、汚っ、お巡りさん! 田っ、多っ、大変なんです! 亜っ、あいつ蛾!」
 駆けて行く、成美を指差す。
警官 「何や! あのコがどうしたんや! 事件かッ!」
長谷川 「あの、九っ、句っ、区っ、クスリですーッ!」
警官 「何ぃ! クスリやとぉーッ!!」
 お巡りさんは、血相を変えて交番を飛び出し、成美を追跡する。後に続く長谷川。

○街路
 成美を追いながら、携帯で話している雅代。
雅代 「あっ先生、すぐに来てくれませんか! 成美が大変なんです!」
先生(声) 「何があったの!?」
雅代 「成美がマグロになったみたいに、走ったまま止らなくなってしまったんです!」
先生(声) 「えっ? どういうこと!?」
 成美の後を追う雅代、合流する長谷川と、お巡りさん。
雅代 「(携帯電話中)――こういうことなんですー!」
警官 「そうか! とりあえず、このままでは危ない! あの子を、安全な場所へ誘導さすんや!」

 

 

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